7月7日(月) 15時過ぎ


僕は退院したあとも病院に残った。
それは、緋色が同じ病院に運ばれてきたためだった。

緋色は全身にひどいけがを負っていて、集中治療室で手術を受けた。
先ほどそれも終わり、一般の病室に移された。

病院に運びこまれてから、緋色は一度も目を開かなかった。
それでも呼吸と脈拍は安定していると、医者に告げられた。

手術中はすがたを消していた深神さんは、手術後に一度だけ様子を見にもどってきた。
しかし、いまはどうしても手を離せない仕事があると言って、ハルカを連れてすぐにもどっていった。

いまは僕と青空が緋色のベッドのとなりに座っている。

「……緋色」

呼びかけてみたけれど、やはり反応はない。
それでも手を握ると、遊園地で手をつないだときよりも、あるいは『七月七日の世界』の最後に手を重ねたときよりも温かく感じられた。

心電図のモニタがピッ、ピッ、とおだやかに鳴る。
僕は顔を上げた。

「青空、メモ帳とペンはある?」
「え? うん、あるよ」

青空は鞄を探ると、小さなメモ帳とペンを取り出した。

「どーぞ」
「ありがと」

メモ帳から紙を一枚切り取ってミニテーブルの上に置いたあと、ペンを紙につけたまま、少しのあいだ静止した。
たちまちインクがにじんで広がり、僕はあわてて紙からペンを離す。

今日は七月七日、七夕の日。

織姫か、彦星か。
影にひそむ悪魔か、森に住む気まぐれな神か。

だれが願いを叶えてくれるのか知らないけれど、 緋色とみずきのふたりの願いを叶えて、僕の願いごとだけ叶えてくれないなんてとんだナンセンスだ。

まるでなっていない。

僕は、ペンを走らせる。
今度はよどみなく文字を書き終えたので、自分の文字を見直した。


『みんながしあわせに過ごせますように 西森蒼太』


僕のしあわせ。
緋色のしあわせ。

そして、村崎みずきのしあわせ。

鮮やかな色のあるこの世界で。
みんながいるこの世界で。


…………神さま。
これくらいは、叶えてもらわないと困るんだ。


おわり
2008年 擱筆
2010/06/10 加筆修正、再公開
2014/02/07 加筆修正
2015/08/17 加筆修正
2018/11/09 加筆修正、レイアウト変更
2026/03/01 加筆修正